競走馬の命




























競走馬の
厩務員になりたくて
競馬学校入学のために
牧場で働くことにしたのが
記憶違いでなければ23歳の頃


念願叶って
競馬学校に入学し
美浦TCに就労したのが25歳


調教助手になって
一念発起


34歳で
調教師になることができたが
その間にたくさんの馬と出会い
多くのことを教わってきた


この世界に入る前は
ただの動物好き

牧場で働く前は
可愛くて可愛くて
しょうがなかった馬だったが
現実を知ると命懸け


競走馬になる前
牧場にいる育成時期は
人間で例えると小学生から中学生

当時は
現在のように
生後直ぐから手を掛ける文化もなく
育成場にきたばかりの馬の中に
行儀が良い馬は一握り


下手をすると
触られることすら嫌がって

『人間は怖くないよ』

というところから
始めなければいけない馬もいた

人間に例えると
言葉も教わっておらず
挨拶すらできない

生後から1年以上
自由気ままに過ごしてきた馬達

コミュニケーション力は
もちろん皆無だ


その状態から
背中に鞍を置いたり
ハミを口内に安定させて慣らし
手綱から伝わる拳の指示や
脚の扶助を教えたり


生活が一変して
何をさせられているか
理解できない馬は
当然のように苦しがったり
反抗したりで逃れようとする


4本の脚で跳びあがり
背中を丸めて跳ねまわったり
立ち上がってひっくり返ったり
というのは当たり前


経験上
特に能力の高い馬は感受性が高く
鞍の上にいる邪魔な物(騎乗者)を
落とそうと必死

人間を
リスペクトしていないから
気に入らないと噛んでくるし
本気で蹴りにきたり威嚇も強烈


現在は
生まれて直ぐから
触られることに慣らし
人間の存在をちゃんと認知


育成技術も
格段に向上しているから
育成時代の苦労はかなり軽減

トレセンに入厩した馬で
手こずる馬も少なくなった


馬の仕事を
やるのだと決めて
かれこれ28年

たくさんの馬たちから
可愛い面はもちろん
怖さや楽しさを教わってきた








そして
常に考えさせられる
競走馬の命という難題



最近は
競走馬の引退後にも
スポットが当てられ

『今日もどこかで馬は生まれる』



という映画も注目されている





長く
この世界にいると
様々な形で当然のように
競走馬の命と向き合うことがある



一番最初は
牧場時代

育成のために
牧場に移動してきたばかりの1歳馬

まだ
環境に慣らす時期で
放牧場に放されていたのだが
どこでやってしまったのか
酷い骨折で動けなくなっていた


骨折した
部位が部位だけに
どう考えても助からない


『小島‼
  お前トレセンに入りたいんだろう』

『一緒についてきて見ておけ』

お世話になっていた
獣医さんから言われ
どこへ向かうのかもわからず
1歳馬を馬運車に積んだ


まだキャリアが浅く
考えが甘かった私は
初心者中の初心者


助からないと言われながら
助けようと手術に踏み切った
テンポイントの話を知っていたこともあり
関係者がお願いすれば
手術してみようという話になるのでは


そう考えながら
痛がる1歳馬をなだめ
数時間馬運車に揺られて移動


結局
その仔は助からず
目の前で辛い最後をみることに


馬頭観音様に
手を合わせながら

『小島これが現実だ』

『慣れるんじゃあないぞ』

『お前はトレセンに入っても
       この現実を忘れるなよ』


と言われた


この出来事が
牧場に努めて1年経たない頃

何かある度に
あの日のことを思い出します



その後も
多くの命と
関わってきました


厩務員生活は
1年ちょっとと短かったため
身近にいる可愛い競走馬との
良い思い出ばかり


調教助手になって以降は
立場も仕事も変わり
頻繁ではないものの
時に起きてしまう辛いこと


一度だけ
馬が好きなのに
矛盾していないかと自問自答

辛い出来事を目の前に
この仕事を辞めようと
真剣に考えたがことがある

でも
やっぱり馬が好き

厩舎にいる馬に対し
可能な限りできることを
ちゃんとやるしかない


自分が辞めても
全く関係なく続けられる競馬

それなら
アクシデントを
軽減させるよう努力することが
自分のやるべきこという気持ちで
今日まで頑張ってくることができた


生き物であるがゆえ
いつかその時はやってくる


引退後に乗馬として
引き取っていただいた馬が
生涯を終えたという連絡を
もらうこともある


ふと
昔の馬を思い出し
年齢的にはもう生きていないだろうな…

と繰り返し
思うことも度々


これまで
数えきれないくらいの
別れを経験してきた


全てが
無駄にならないよう
忘れずにいることが大事






10月の初日
2頭の管理馬が
不慮の事故により命を失いました

同じ日に
同時に2頭が事故にあうのは
もちろん初めて


プール調教から
厩舎に戻ってくる時に
1頭が暴れて放馬

それにつられて
もう1頭も逃げてしまい
一緒に走って行ってしまった
というのがわかっていること



その時
調教中だった私に

『プールに行ったはずが
       馬だけ帰ってきました』

という電話

『普通に歩いて帰ってきましたし
         特に傷もなくて大丈夫そうです』


という話で

『わかった
   じゃあ人間が無事かだけ確認して』


というのが第一報


厩舎に戻ると
歩いて帰ってきた馬が横になっている

放馬して走った馬が
歩いて帰ってきたとはいえ
直ぐに横になるのはおかしい


と思っているうちに
眠るように息を引き取ってしまった


もう一頭の馬は
直ぐ近くにある
他厩舎の近くで保護されたが
怪我が酷く施しようがないと判断された


逃げて
2頭で走って行ってしまい
自分で厩舎に戻ってきた馬と
近くで保護された馬

歩いて帰ってきた馬は
腹腔内の出血が原因だったと
後々わかったのだが

どこで
どうなって
何が起こってしまったのか

全く
知る術はない

2頭とも
元気な馬なので
つい興奮して走り過ぎてしまったのか


怪我の
要因となった何かが起こった後で
2頭とも厩舎まで戻ろうと
頑張って歩いたことを思うと
ただただ切ない



そして今回
悲しい思いをさせてしまった
馬主さんはじめ関係者の方々には
お詫びを申し上げるしかなく


トレセンで元気に
調教されているはずの馬の
突然の整理つけられない話

それを
突き付けられる時の衝撃は
想うだけでも辛くなる



稀に
他厩舎に起きた
アクシデントを耳にすることもあるが
その時も心が痛い









少し前に
当時の管理馬が
放牧に行ったまま
帰ってこなかったことがある

聞いたことがない
ありえない形での最後


長く
この仕事をしている私たちは
そんなことが起こる現実を
多かれ少なかれ経験して理解しているし
現場の人達が最善を尽くしていることも
解っている

だから
辛く寂しいことと思いながらも
両手を合わせて受け止めるようにしている


しかしこの時も
電話口で涙する人がいらしたという話







厩舎が開業して
まだ間もないころ
信じられないくらい良血の馬を
管理させていただくことになり
それはそれは素晴らしい乗り味だった


まだ時期尚早と
大事にする気持ちで放牧

しかしその馬が
再度美浦に戻ってくることはなかった

度々
思い出しながら

『しょうがないよな…』


と思うのだが

あの馬がいたら
厩舎の立ち位置も
かなり違っていたのではないか
とさえ思う



楽しいはずの競馬が
悲しいものにはならないように…


これからも
厩舎に在厩している馬達に
心して接していきたいと思います










前述した2頭のうち
眠るように最後を迎えることになった
5歳の牡馬は2歳の夏に新潟でデビュー


血統的にも期待十分で
新馬戦は2番人気


まさかその後に
初勝利まで17戦を要し
しかもそれが障害レースだとは
全く想像もできず


平地で
最後となった未勝利戦で
初めての2着


でも着差は
1秒以上離されて


『これで抹消か…』

と思ったら

『スタミナはあるし
      障害が向いているんじゃないですか』


と鞍上からの
アドバイスもあって障害転向


障害レースでも
最初の2戦は不器用さを露呈したが
その後は初勝利まで全て入着



障害転向から11戦で
期間にするとおよそ2年


こんなに長く
お付き合いいただいた
関係者の皆さんには
今でも感謝しかありません


今年の
初夏の東京競馬


不良馬場に
喘ぐ走りをみながら


『あー今日も2着か…』


と諦めそうになった時
最後の力を振り絞って
ハナ差勝ち


ゴール前は
応援していた各々が

『差せ-』

とか

『頑張れー』

とか

『シンイチ~』

とか


実は
馬名の由来が

『叫ぶ』



忘れられない
初勝利となりました


不良馬場で
頑張り過ぎたのか
疲労が残ったため休養


昇級後
初めてのレースは
マズマズの手応えで
次走は初めての重賞挑戦
という矢先

18戦中
12回の入着と安定した成績

6歳か
7歳になったら
重賞の常連になるイメージで
究極の晩生タイプだと思っていました






酷く
負傷しながら
厩舎まで戻ろうと
頑張ってくれたもう1頭の馬は
まさにその週に勝ってくれると
期待していた馬


血統的にはマイナーも
デビュー後から徐々に増してきた
気性の激しさ


初勝利直前は
調教中に大ジャンプ

乗り手を
落として走り回り
あちこちに擦過傷


出走取り消しを覚悟し
馬主さんにもその旨を報告していたのだが
奇跡的に出走可能な状態となって
嬉しい初勝利


デリケートな
部分も多々ありながら
最近は少しずつ気性も穏やかになり
そう遠からず厩舎の柱になる可能性も感じていた








こういう
競走馬の辛い面に
スポットを当てた話を書くと
動物愛護の観点もあり
競馬に否定的な意見も出るだろうが
じゃあ馬は何のために生まれてくるか


古くは
外国で始まったらしい
競馬という文化

構造上
背中に鞍を置き
人を乗せて歩いたり
走ったりすることができる数少ない動物


昔から
競馬以外では
農業など使役に使われていたが
犬や猫のように人と身近に接する能力もある

さすがに
その大きさから簡単に飼育はできないが
人とのコミュニケーション能力を生かしながら
行われてきたのが競馬

これからは
競走馬引退後の余生が整備され
競馬によって多くの人に認知された馬は
血統繁栄のために新たな舞台へ

足が遅くて
頑張っても頑張っても
後ろを走っていた馬も違った舞台で
人と触れ合って癒しとなる


それが
理想なのかもしれません



その過程で
1頭1頭の命を大切に


アクシデントが
皆無となることを目指しながら…







今週も
いつものように競馬が行われます











































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この記事へのコメント

2019年10月26日 21:04
本音のブログ。涙です、、、
にゃー
2019年10月26日 22:57
やはり悲しいけど、思いを寄せて馬を見守ってくれてありがとうございます。くらぶ馬で何頭かお世話になり次年度もお世話になります。過日引退した馬はG1は勝てなかったけど、出れただけでもしあわせです。色々な思いを乗せて馬が無事に走ってくれる。それで十分。一口20年以上が過ぎて陰ながら更に彼らを応援していきます。今後もその思いを繋げて頑張ってください。応援させていただきます。
夢見男
2019年10月27日 07:11
生きとし生けるもの、全て己以外の命との別れが必ず訪れます。
その別れのなかで、人は様々な感情や想いを巡らせます。
先生の厩舎の馬たちは、先生をはじめとするスタッフみなさんの慈愛に触れ、幸せな馬生を過ごせているのではないでしょうか。
私はただの競馬ファンのひとりに過ぎませんが、もし馬主の立場なら、先生の様な方に愛馬をお預けしたいですよ。
どうかご自愛くださり、ご活躍ください。
basso504
2019年11月02日 13:07
乗馬経験者で、馬事公苑でも勤務してました。

競走馬として生まれ、走ることを終えた馬達のその後は難しいものですね。

全ての馬に未来があればいい、でもそんなに簡単じゃない。

競走馬として役目を終えて、
そのまま処分される事もあるでしょう。

そんな事を知っていて、私たちは競馬に関わっている。

走らせる側も、見る側も、せめてレースに出る全ての馬に愛着を持って、必死に走っているのだと感じて見て欲しいですね。

中々勝てない馬でも、一生懸命走ってる。

厳しいこともあるだろうけど、
馬はきっと先生を愛してくれていますよ。

いつも、泣いてください。

そして前に進みましょう。
調教師
2019年11月22日 19:43
にゃーさん、夢見男さん、basso504さん、皆さんコメント有難うございます。皆さんの心温かいコメントに救われながら、しかし忘れることなくこれからも出来ること、可能なことを一生懸命にと感じています。ペットとの別れもそうですが、命を扱うって難しく、何よりも貴重な経験かもしれません。